手術では無くせないリスク

 ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーが5月14日、ガン予防のために両乳腺を切除する手術を受けたことを発表した。遺伝子検査の結果、乳がんのリスクは87%と告げられたジョリーは、悩んだ末、子どもたちのために、リスクを5パーセントに下げる手術を決意したという。ジョリーの決断に後押しされ、あるいは過剰に反応して、ガン予防の手術を受ける人が増えるかも知れない。いくら予防のためとはいえ、健全な身体にメスを入れるのは、勇気が要ることだろう。しかし、それほど恐ろしいのが「死」であることを、証明しているともいえよう。

高森顕徹監修『なぜ生きる』1部8章には、こう書かれている。

 風邪だと言われても驚きませんが、「ガンだ」「エイズだ」となると大騒ぎです。それらは死に至るからでしょう。
 ティリッヒ(ドイツの哲学者)は 『生きる勇気』 で、人間は一瞬たりとも、死そのものの「はだかの不安」には耐えられないと言いました。死と真っ正面に向きあうのは、あまりにも恐ろしいので、病気や環境問題と対決しているのでしょう。核戦争が怖い、地震が恐ろしい、不況が心配……というのも、その根底に「死」があるからではないでしょうか。
 私たちは、「死神の掌中で弄ばれる道化」ともいわれます。どれだけ逃れようともがいても、死に向かってひた走っているのです。しかもその壁の向こうはどうなっているのか、まるで知りません。
 未来がハッキリしないほどの、不安なことがあるでしょうか。先の見えない闇の中を走っているから、何を手に入れても、心から明るくなれないのでしょう。