ヒーローの苦悩

 バスケットボール界の巨人、マイケル・ジョーダンはスポーツ界で最も魅力あるカリスマ的人物の一人。しかしその並はずれた名声は、代償を伴ってきた。自分は事実上、名声に捕らえられた囚人だと言っている。公の場に出るとあまりにも大きな騒動になるので、できることなら、自宅かホテルにいたいという。
 彼にとって申し分のない一日とは、起きると朝食に、妻と子供をパンケーキハウスへ連れて行き、それから遊園地へ行くといった、彼が十二、三歳の時からやってこなかったと言うことをすることだった。
「行けないよ」1994年、人気絶頂の頃、出版された『レアエア』という彼自身の本の中で言っている。「いや行けるけれど、見せ物にはなりたくない。子供たちがかわいそうじゃないか。ときどき、マイケル・ジョーダンでない自分を想像してみることがある。いやマイケル・ジョーダンであっても、家族を持ち、家庭のことができる他のみんなと同じだったらと思う」
 非凡な男が、平凡な生活を求めているのだ。

高森顕徹監修『なぜ生きる』1部5章には、こう書かれている。

どんなに好きで得意なことでも、仕事にしたら苦しくなるといわれます。「いい仕事をしているな」と、羨望の眼で見られている人でも、外からはわからない憂苦を抱えているのでしょう。

 仕事は生きる手段であって、生きる目的ではないのだ。