3・11の津波の被害から、半年も経たないうちに、日本列島を襲った台風12号は9月3日夕から4日朝にかけ、紀伊半島を中心に甚大な被害をもたらした。土砂崩れと川からの濁流により、多くの死者、行方不明者が出ている。和歌山県では、結婚式を間近に控えた24歳の女性が、結納の予定だった4日に流され、行方不明となった。
 一寸先は闇。いつ何がおきるかわからない、無常の世の中で、唯一つのまことは「弥陀の本願」だと親鸞聖人は教えてゆかれたと、高森顕徹監修『なぜ生きる』2部20章には、こう書かれている。

   煩悩具足の凡夫・火宅無常の世界は、よろずのことみなもって、そらごとたわごと、真実あることなきに、ただ念仏のみぞ、まことにておわします
(『歎異鈔』)

「いつ何がおきるか分からない火宅無常の世界に住む、煩悩にまみれた人間のすべてのことは、そらごとであり、たわごとであり、まことは一つもない。ただ念仏のみがまことなのだ」
 聖人には、弥陀の本願のほかに、まことはなかった。
「念仏のみぞ、まことにておわします」
は、
「本願のみぞ、まことにておわします」
を言いかえられただけである。
 弥陀の本願以外に、この世に確かなものは何もない、鮮明不動の「法の深信」に立つ聖人には、「弥陀の本願まことにおわしまさば……」と、なんのためらいもなく言えたのであろう。
「弥陀の本願まこと」が、つねに聖人の原点であったのだ。