死を忘れるなかれ

 アップル社・元CEOスティーブ・ジョブズは2005年6月、米国スタンフォード大学の卒業式に招かれ、スピーチをた。
 その中で「自分が間もなく死ぬことを覚えておくことは人生の重要な決断を助けてくれる私が知る限り最も重要な道具」と述べている。

17歳のとき次のような一節を読んだ。「毎日を人生最後の日であるかのように生きていれば、いつか必ずひとかどの人物になれる」。私は感銘を受け、それ以来33年間毎朝鏡を見て自問している。「今日が人生最後の日だとしたら、私は今日する予定のことをしたいと思うだろうか」。そしてその答えがいいえであることが長く続きすぎるたびに、私は何かを変える必要を悟った。

自分が間もなく死ぬことを覚えておくことは人生の重要な決断を助けてくれる私が知る限り最も重要な道具だ。なぜならほとんどすべてのこと、つまり、他の人からの期待や、あらゆる種類のプライド、恥や失敗に対するいろいろな恐れ、これらのことは死を前にしては消えてしまい、真に重要なことだけが残るからだ。いつかは死ぬということを覚えておくことは落とし穴を避けるための私が知る最善の方法である。


 死を前にすれば、人生のささいな問題はすべて消えてしまう。誰もが嫌がる死を見つめてこそ、人生で最も大事なことが知らされ、正しい決断ができる。

高森顕徹監修『なぜ生きる』1部8章には、こう書かれている。

 私たちは、「死神の掌中で弄ばれる道化」ともいわれます。どれだけ逃れようともがいても、死に向かってひた走っているのです。しかもその壁の向こうはどうなっているのか、まるで知りません。
 未来がハッキリしないほどの、不安なことがあるでしょうか。先の見えない闇の中を走っているから、何を手に入れても、心から明るくなれないのでしょう。「この苦しみは、どこからくるのか」―― 人生を苦に染める真因がわからなければ、真の安心も満足も得られません。苦しみの元を断ち切って、「人間に生まれて良かった!」という生命の歓喜を得ることこそが、人生究極の目的なのです。
 死をありのまま見つめることは、いたずらに暗く沈むことではなく、生の瞬間を、日輪よりも明るくする第一歩といえましょう。