いかほど深き欲の穴

 アップルのCEO(最高経営責任者)ティム・クック氏が5月21日、アメリカの上院公聴会で、課税を避けていると厳しい追及を受けた。クック氏は「払うべき税は払っている」と主張し、複雑な税制が悪いと反論している。海外に子会社を作る節税は昔からあるが、アップルが叩かれたことで国際的な議論が巻き起こり、マイクロソフトやグーグルを含む、多くの企業が同じような手法を使っていることが明らかになった。
 法の抜け穴を見つけたら、誰でも最大限に利用しようと思うだろう。だが、いつかは破綻し、大きなイメージダウンとなる。欲の大山に押し潰される事例に事欠かない。
高森顕徹監修『なぜ生きる』2部15章には、こう書かれている。

遺伝子の構造を解明して、ノーベル賞を受けたワトソンは、その著 『二重らせん』 で、周囲をあざむき情報を盗み見たり、ライバルには成果を隠したりした姑息な手段を、生々しく自白した。「鳴かず飛ばずの大学教授で終わるより、有名になった自分を想像したほうが、楽しいに決まっている」と語るワトソンは、決して自分の言動は風変わりなものではないだろう、と書いている。近代科学の創始者ニュートンは「微分積分学」発見の功名争いで、ライプニッツと長期間、醜い暗闘にしのぎを削った。清潔なイメージの科学の世界でも、名誉欲が渦巻いている。
 この大山に押しつぶされて、無残に果てる人がいかに多いか。二十世紀最後の十一月。別の遺跡から出た石器を自分で埋めて、「六十万年前の石器発見」と事実を捏造していた遺跡調査団長が発覚。十年来の考古学研究がゆらいでいるというのだ。次々と「日本最古」をぬりかえる成果を発表、「神の手」などと呼ばれて脚光を浴びていた人物だったという。