盛者必衰のことわり

1970年代から車産業の発展とともに栄え、世界に名をとどろかせたデトロイト市は、車産業の衰退とともに荒廃し、とうとう7月18日に破綻した。負債総額180億ドル(約1.8兆円)は、自治体では米史上最大という。
日本車に押されて、アメリカの自動車産業が後退すると、デトロイトの工場は閉鎖され、街には失業者が溢れた。そのため犯罪が増えるから、子供のいる親は町を逃げ出す。家が減れば税収も減り、警察官が減るから犯罪が増え、さらに親が逃げ出すという悪循環の末、人口は激減し、経済破綻となったのである。
 地震、台風、落雷、火災、殺人、傷害、窃盗、病気や事故、肉親との死別、事業の失敗、リストラなど……。いつ何が起きるか分からない泡沫の世に生きている。
 盛者必衰、会者定離、物盛んなれば則ち衰う、今は得意の絶頂でも必ず崩落がやって来る。出会いの喜びがあれば、別れの悲しみが待っている。
 一切の滅びる中に、滅びざる幸福こそ、全ての人の求めているものであろう。
高森顕徹監修『なぜ生きる』1部6章には、こう書かれている。

大好きな犬が死んでからノイローゼになった少年は、リスの縫いぐるみを肌身離さず持ち歩くようになりました。
「縫いぐるみって、生きてるペットよりいいですよね。やさしいし、裏切らないから」
「だって、死んじゃうってこと自体が……やっぱり裏切りですよ」
と少年は語っています(大平健 『やさしさの精神病理』)。
 子供が結婚して自分から去ったあと、うつ病になる婦人が多く、「空の巣症候群」と名づけられます。別離がそれだけつらいのは、お腹を痛めた子は命だからでしょう。その「命」に母親が、金属バットで殴り殺されたり、絞殺されたりする事件がつづいています。
「どうしてあの子が……」
「苦労して育てたのに……」
 絶望の闇に呑まれた無念さはいかほどか、「深海の化け物よりおぞましき」と思うのは、わが子の逆恩でしょう。

 もう、残酷な裏切りに傷つけられたくはない。

 裏切らぬ幸せのほかに、全生命を投入して悔いなしといえるものが、あるでしょうか。一切の滅びる中に、滅びざる幸福こそ、私たちすべての願いであり人生の目的なのです。