食品偽装は氷山の一角

 レストランなどで、メニューの表記と異なる食材が出されていたことが、各地で発覚している。大阪に端を発した「偽装」騒ぎは、一気に全国に拡大した。本を正せば、一円でも多く欲しいという、欲望が原因であろう。マスコミで騒がれている事件は、われわれのキリのない欲望の一角が、現れたにすぎないのではなかろうか。

高森顕徹監修『なぜ生きる』2部15章には、利益欲の実態を、こう書かれている。

ほしい、ほしい、もっと欲しいの利益欲からは離れ切れない。黄金の雨がふっても満足できぬ強欲だけが、よく見える。
「不幸のほとんどは、金でかたづけられる」と言ってのけた菊池寛(近代の作家)の信者は、昔も今も多数をしめる。金のためならなんでもする、金色夜叉百鬼夜行だ。
 平成十二年七月、奈良市の四十三歳の看護婦が、腹を痛めた十五歳の長女に毒茶を飲ませ、殺害しようとした疑いで逮捕された。長女には三千万円の保険金がかけられていた。この白衣の母親は、三年前にも、当時十五歳の長男と九歳の次女を同じ手口で殺し、二千万円の保険金を受け取っていた容疑もかけられているという。
 ノミはノミの糞をし、象は象の糞をする。どれだけの高位高官、大臣、総理経験者までが、ワイロで獄舎につながれ、恥辱の一生で終わったことか。営々と築き上げてきたものが、利益欲の大山に押しつぶされ、悲嘆に暮れる人がなんと多いことだろう。己を映す鏡に、事欠かない。
 他人の利害にはブタのように鈍感だが、自分に損得がからんでくると、とたんに全神経を逆立たせる。己の欲をさまたげる者は肉親であれ恩人であれ、恥も外聞もなく押し倒し突き殺す、無慈悲な魔の手はのびてゆく。