名利の大山

「現代のベートーベン」と称される人気作曲家に、ゴーストライターがいたことがわかった。ゴーストライターをしていた講師は、実際には当人は耳が聞こえていたと主張し、作曲家自身も謝罪している。褒められたい名誉欲、お金の欲しい利益欲が、いかに人を迷わせるか。

高森顕徹監修『なぜ生きる』2部15章には、こう書かれている。

 遺伝子の構造を解明して、ノーベル賞を受けたワトソンは、その著 『二重らせん』 で、周囲をあざむき情報を盗み見たり、ライバルには成果を隠したりした姑息な手段を、生々しく自白した。「鳴かず飛ばずの大学教授で終わるより、有名になった自分を想像したほうが、楽しいに決まっている」と語るワトソンは、決して自分の言動は風変わりなものではないだろう、と書いている。近代科学の創始者ニュートンは「微分積分学」発見の功名争いで、ライプニッツと長期間、醜い暗闘にしのぎを削った。清潔なイメージの科学の世界でも、名誉欲が渦巻いている。
 この大山に押しつぶされて、無残に果てる人がいかに多いか。二十世紀最後の十一月。別の遺跡から出た石器を自分で埋めて、「六十万年前の石器発見」と事実を捏造していた遺跡調査団長が発覚。十年来の考古学研究がゆらいでいるというのだ。次々と「日本最古」をぬりかえる成果を発表、「神の手」などと呼ばれて脚光を浴びていた人物だったという。