英雄一転、罵倒の嵐

 北京オリンピック男子110メートル障害で、中国の劉翔選手(25)が、アキレスけんの痛みを理由に棄権した。アテネ五輪では金メダルを取り、13億人の希望を背負った英雄だった。

 けがだから仕方ないと同情する意見もある一方、ネットには非難の書き込みが集中。
「中国人のメンツをつぶした」「この脱走兵め」「誰よりも早く逃げた」など、容赦ない罵倒の声があふれた。

 激しい批判の背景には、劉翔選手の高い収入と、ぜいたくな暮らしぶりもあると見られる。中国メディアの報道によると、アテネ五輪後は商業活動が増え、自動車、不動産などの広告収入だけで収入は8000万元に達したという。高級な外車を乗り回し、2億円の豪邸を購入したことも話題となった。

 国民の期待を一身に受けた英雄も、その期待に応えることができなければ、一転してこき下ろされる。都合によってコロコロ変わる、人間の評価のいいかげんさを見せつけられる。

 高森顕徹監修『なぜ生きる』2部13章には、こう書かれている。


 人間の価値判断は、いかにいい加減なものなのか、「今日ほめて 明日悪くいう 人の口 泣くも笑うも ウソの世の中」と、一休も笑っている。
 自分に都合のよいときは善い人で、都合が悪くなれば悪い人という。己の時々の都合で他人を裁き、評価しているのではなかろうか。人の心は変化するから善悪の判断も変転する。「昨日の味方は、今日は敵」の裏切りがおきるのもうなずけよう。