有無同然

 ティム・スペクター著『99%は遺伝子でわかる!──人生はどこまでプログラム済みか』では、物が豊かになっても、幸福感は増えていない現状を、このように訴えている。

 

人間はもっとたくさんのものが手に入れば、自分は幸福になれるものと思いこんでいる。
もっとたくさんの食料、所有物、休日、余暇、成功、名声、富…、それらを求める貪欲さが、世界中に蔓延している。
実際、1970年代以降、収入はアメリカで約50%、イギリスでは約30%増加し、日本では2倍になっている。
しかし、それにもかかわらず、過去50年間、定期的に実施している調査から、どの国の国民も「人生が以前より幸せで、充実」と答えていないことが明らかになった。
また、このような欲望が原因となるうつ病や自殺は、日本など、世界でも指折りの豊かな国ほど高い。


 物が有れば幸せになれると皆、思っているが、有っても無くても苦しんでいることは同じだと、釈尊は二千六百年前に教えられている。
 それを高森顕徹監修『なぜ生きる』2部3章には、こう書かれている。

   

田なければ、また憂いて、田あらんことを欲し、宅なければ、また憂いて、宅あらんことを欲す。田あれば田を憂え、宅あれば宅を憂う。牛馬・六畜・奴婢・銭財・衣食・什物、また共にこれを憂う。有無同じく然り
(『大無量寿経』)

「田畑や家が無ければ、それらを求めて苦しみ、有れば、管理や維持のためにまた苦しむ。その他のものにしても、みな同じである」
 金、財産、名誉、地位、家族、これらが無ければないことを苦しみ、有ればあることで苦しむ。有る者は?金の鎖?、無い者は?鉄の鎖?につながれているといってもよかろう。材質が金であろうと鉄であろうと、苦しんでいることに変わりはない。
 これを釈尊は「有無同然」と説かれる。

 どれほど物が豊かになっても、本当の苦悩の根元を知り、取り除かないかぎり、人生の重荷はおろせないであろう。