不況のトンネルを越えたら何が

 1975年、75歳で世を去った“海運王”アリストテレス・オナシスの遺産は1兆円と言われる。
 睡眠3時間で猛烈に働き、20代後半には億万長者に。“金は道徳よりも強い”と豪語し、手段を選ばず事業を広げ、財産は小国以上だった。
 そのオナシスが晩年にこう語っている。

私の生涯は、黄金の絨毯を敷き詰めたトンネルの中を走ってきたようなものだ。トンネルの向こうには幸せがあると思い、出口を求めて走ったが、走れば走るほど、トンネルはまた長く延びていった。幸福とは、遠くに見える出口の明かりなのだろう。だが黄金のトンネルから、そこにはたどり着けないのかもしれない。

 未曾有の世界不況で、「この不況さえ解決すれば幸せになれる」と思っている人は多いだろう。だが、お金や財が無いのが不幸の原因であれば、黄金のトンネルを走ったオナシスは、幸せにたどり着いたはずだ。
 なぜ、こんな結末になるのか。釈迦の教説を、高森顕徹監修『なぜ生きる』2部3章には、こう書かれている。

  田なければ、また憂いて、田あらんことを欲し、宅なければ、また憂いて、宅あらんことを欲す。田あれば田を憂え、宅あれば宅を憂う。牛馬・六畜・奴婢・銭財・衣食・什物、また共にこれを憂う。有無同じく然り
(『大無量寿経』)

「田畑や家が無ければ、それらを求めて苦しみ、有れば、管理や維持のためにまた苦しむ。その他のものにしても、みな同じである」
 金、財産、名誉、地位、家族、これらが無ければないことを苦しみ、有ればあることで苦しむ。有る者は?金の鎖?、無い者は?鉄の鎖?につながれているといってもよかろう。材質が金であろうと鉄であろうと、苦しんでいることに変わりはない。
 これを釈尊は「有無同然」と説かれる。
 どれほどの財宝や権力を手にしても、たとえ宇宙に飛び出しても、本当の苦悩の根元を知り、取り除かないかぎり、人生の重荷はおろせないであろう。