「なぜ生きる」を知りたがる子どもたち

 1997年、酒鬼薔薇聖斗と名乗る少年による小学生連続殺傷事件で犠牲となった、山下彩花ちゃんの母親、山下京子さんは、その著『彩花へ―「生きる力」をありがとう』で、人生の目的を考える大切さを訴えている。

「学校の成績だけで人間に優劣をつけ、何のために生きるのかを誰も自信をもって教えない社会。『事件』を起こした少年だけでなく、日本中で若い少年たちが狂犬のような眼で街を徘徊し、人生で一番美しい年代の少女がお金のために体を売る時代。
 何のために生きるのかを問わない生き方は、動物と変わりません。いや、知恵がついているぶん、人間は最悪の動物にさえなります。(中略)
 昔であれば、その善悪は別として、"お国のため"という大義がありましたし、庭付きの一戸建てを手に入れることは、人生を賭けてもいいくらいの夢に思われたのでしょう。しかし、時代が成熟して、そういう目標が意味を失ってきた今、子供たちはより真剣に『何のため』に生きるのかを知りたがるはずです。その思索を、大人たちが十分にしているでしょうか。親や教育者である前に、一人の人間として、真剣に自分自身の生きる意味を問いかけているでしょうか。この問題を克服していくカギは、結論から言えば『死』をきちんととらえ直すことから始めるしかない。それが、私たちの一致点でした。
『死』から目をそらす時代に終止符を打ち、真剣に『死』の意味を探り、そこから『生』の深い意味を見出さなければ、『何のため』に生きるのかという答えは出てこないはずです。さらにいえば、『死』を見つめられることが人間の唯一の特権であり証であるならば、私たちは勇気を出して挑戦しなければなりません」

 子どもは真剣に「なぜ生きる」を知りたがっているのに、誰も教える人がいない。種々の事件の根底にある問題は、人生の目的が分かっていないことなのではないだろうか。

高森顕徹監修『なぜ生きる』1部2章には、こう書かれている。

 自分の人生に、意味や価値を感じられない人が増え、それが種々の事件や問題の起因だと、強く指摘する人もあります。
 平成八年の東京都の調べでは、女子高生の四パーセント、中学女子の三・八パーセントが「援助交際」の経験があったといわれます。十七歳の援助交際を描いたベストセラー 『ラブ&ポップ』 で、作家の村上龍氏が訴えたかったのは、「自分に価値があると感じられない女子高生が、大勢いる」という事実です。「どうせワタシなんか」が、彼女たちの口癖だといいます。自分の存在に値があると思ったら、二、三万円で買いたたかれたりはしないでしょう。