本当の希望は「なぜ生きる」

 内閣府は5月1日に、「自殺対策に関する意識調査」の結果を発表した。それによると、20代の若者のうち本気で自殺を考えたことのある割合が28.4%に上り、全世代で最多だった。
 就職難で未来への希望がないことが要因だと分析している専門家もいるが、果たして雇用の問題が、自殺の根本原因だろうか。
高森顕徹監修『なぜ生きる』1部2章には、こう書かれている。

 日本の自殺者は、年間三万人を超えました。交通事故で亡くなる人の、三倍強です。平成十年の急増は、男性の平均寿命を下げるほどの、異常事態となりました。長引く平成不況が原因と、早計にはいえないでしょう。フランスの社会学者デュルケムは、富豪ほど自殺率が高いことなどから、経済的に豊かな人ほど深刻な苦悩にさいなまれていることを、各種の統計で裏付けています。
 米国の著名な心理学者チクセントミハイは、「生きる目的」がわからないから、どれだけ利便と娯楽に囲まれても、心からの充実が得られないのだと説明しました。自殺の根本原因も、「人生の目的の重さ」「生命の尊厳さ」を、知らないからではないでしょうか。「そんなにまでして、なぜ生きるのか」人生の根底に無知であれば、ひとは死を選んでも決しておかしくないでしょう。
 一億円の宝くじの当選券を大事にするのは、一生働いても得られぬ価値があると思うからです。ハズレくじなら、ゴミ箱へ直行でしょう。割れたコップや修理のきかないパソコンなどと同様に、価値のない物は捨てられます。
 自分の生命が地球よりも重いと知れば、「ハズレくじ」を捨てるように、ビルからの投身も、他人の命を虫けらのように奪うことも、できるはずがありません。
「人生には、なさねばならない目的がある。どんなに苦しくても、生き抜かなくては」と、生きる目的が鮮明になってこそ、生命の尊厳が知らされるのです。
 子供の相次ぐ自殺やエスカレートする殺人に、世の中は騒然としています。家庭の問題だ、教育の欠陥だ、少年法が悪い、病んでいる社会……解説は十人十色です。しかし「苦しくとも、生きねばならぬ理由は何か」、肝心の「人生の目的」が抜け落ちた議論がつづくだけでは、対策も立てようがないでしょう。

 最も大事な「なぜ生きる」を論じてこそ、真の対策が生まれるであろう。