墜落する飛行機の乗客

 7月にウクライナで、マレーシア航空17便が撃墜された。乗客乗員298人が全員、死亡している。この事故で193人の犠牲者を出したオランダの外相が、遺体の一つが酸素マスクを付けていたと、テレビ番組の中で漏らした。
 それまで、犠牲者は全員、何が起きたか分からないまま即死だったと思われていたが、ミサイルで撃墜された後、何人かは意識があり、人生最後の瞬間を、恐怖と絶望の中で過ごしたことが分かり、再び悲しみに突き落とされた遺族が、激しい抗議をした。
 だが、このマレーシア航空の乗客だけが、墜落する飛行機に乗っているのではなかろう。すべての人は、生まれると同時に、百パーセント墜落する飛行機に乗っているのだ。そんな飛行機に乗って、心から安心できるはずがない。どれでけ便利な世の中になっても、幸せになれないのは、必ず墜落する飛行機に乗っているからなのである。

高森顕徹監修『なぜ生きる』2部6章には、こう書かれている。

 未来が暗いと現在が暗くなる。墜落を知った飛行機の乗客を考えれば、よくわかろう。どんな食事もおいしくないし、コメディ映画もおもしろくなくなる。快適な旅どころではない。不安におびえ、狼狽し、泣き叫ぶ者もでてくるだろう。乗客の苦悩の元はこの場合、やがておきる墜落なのだが、墜死だけが恐怖なのではない。悲劇に近づくフライトそのものが、地獄なのである。
 未来が暗いと、現在が暗くなる。現在が暗いのは、未来が暗いからである。死後の不安と現在の不安は、切り離せないものであることがわかる。後生暗いままで明るい現在を築こうとしても、できる道理がないのである。